命題宇宙論序説――凪原斗真と野々村俊介の対話による
はじめに
「世界とは、成り立っている事実のすべてである」――このヴィトゲンシュタインの断言は、論理の形式美と沈黙の重みを同時に我々に突きつける。だが、世界とは本当に「事実」の集合で説明し尽くせるのか? 夢、神話、詩、そして数学。これらはすべて、語る者にとっての“世界”ではないか?本稿では、「事実命題」と「虚構命題」という二項対立を出発点にしつつ、それを超えた“第三の命題空間”の必要性を提案し、「命題宇宙論」というモデルを提示する。
第一節:命題世界の基本分類
1.1 事実命題(経験世界)
命題例:「机の上に本がある」
五感で検証可能、空間・時間に定位される
ウィトゲンシュタイン、ラッセル、フッサール(経験的証拠)などに支持される
排中律、矛盾律を前提とする(D∧¬D は成立しない)
1.2 論理・数学命題(形式世界)
命題例:「自然数に偶数がある」
経験を超越し、論理的・構成的に成立
ラッセル=論理的構成、ウィトゲンシュタイン=トートロジー、フッサール=本質直観、クワイン=理論的存在
やはり D∧¬D は成立しない
1.3 虚構命題(意味生成世界)
命題例:「ペガサスは空を飛ぶ」「ゾンビが笑った」
矛盾命題すら容認可能:D∧¬D が物語内で成立しうる
グラハム・プリースト:パラコンシステント・ロジック(矛盾許容論理)
三浦俊彦:物語論・多値論理(虚構における意味論)
フッサール:意識に現れる志向的対象としての“現れ”の存在論
第二節:凪原モデルの提示
2.1 論理世界と虚構世界の二項分割
全命題世界 = 論理世界 ∪ 虚構世界
論理世界 ⊇ 数学命題 ⊇ 経験命題
虚構世界:物語・幻想・詩・矛盾構造(D∧¬D)を許容する言語空間
2.2 含意
「世界のすべては語れるわけではない。だが語られることは、論理か虚構のいずれかに属する」
「真理」は論理世界、「意味」は虚構世界に宿る
第三節:対話編――沈黙の輪郭 第二章への導入
登場人物:
凪原斗真:論理と倫理を横断する現代的懐疑者
野々村俊介:かつての野矢派、沈黙に忠実な形式主義者
甲斐志澄:言葉と沈黙のあいだに佇む観測者
対話導入案:
斗真:「事実って、本当に“今ここ”でしか意味を持たないのか?だったら、数学はなんだ? ペガサスは?」
野々村:「数学は形式の中での自己整合性。ペガサスは物語。それぞれ世界が違う」
斗真:「じゃあ“世界”ってのは、いくつもあるのか?」
志澄:(静かに)「……あるわ。けど、交わらないのに、なぜか共鳴するの」
この瞬間、斗真の目に初めて“虚構を語る沈黙”が灯る。
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